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いつでも胸に批判精神を(言いっぱなし書き飛ばし)2007-07-17

 数年前週間少年ジャンプ誌上にて「純情パイン」を連載し、私を含む一部の大人(になってもつい少年ジャンプを読んでしまう)読者層に好評を博すも、メイン層からの支持が得られずあえなく打切りとなった『尾玉なみえ』の漫画を最近になって集めている(ただし純情〜は大好評絶版中につき手に入らなかった)。
 なるほど面白い。確かに「面白いか否か」で線引きすれば確実に「面白い」の部類に入る、のだがしかし、全作品に共通してあと一歩何かが足らない感がある。
 その何かとはナニか…短編集「ロマンティック食堂」のポエムを読んでうっすらと疑いを抱き、表紙をとっぱらった中にあるタイトル候補一覧を見て、微かな疑いは確信にかわった。言葉選びに勢いがないっちゅうかセンスが足らないのだ。無いわけではなく足らないので、さも「笑わせようと考えました〜」「考えてない風を装いました〜」というあざとさが(実際作者にあるにせよ無いにせよ)読み手に伝わるのである。シリアスなストーリー漫画では斜めにニヤニヤ笑えるが、ギャグ漫画では笑えない。
 そしてセリフにリズム感がなくテンポが悪いため、読み手の流れが止まりがちでもある。声に出して読むとよくわかるのだが(実践する場合は周りに人がいないか確認することをおすすめする)前述のポエムにおいても詩的な流れが感じられず、いまいち詩になっていないのだ。
 私が近年ハマってきたギャグ漫画家、すなわち岡田あーみん、デビューしたてのうすた京介、輝いていた頃の私屋カヲル等に共通するのはその言語感覚の鋭さ、台詞まわしから滲み出るリズム感の良さ、そしてそれらをくり出す間の良さだ。こういった物は努力だけではなかなか身に付くものではないだろう。
 言葉の勢いのなさをカバーするのに構図の工夫、コマ割り構成、吹出しの配置などがあるが、それもいたって単調である。そしてまた残念ながら、彼女は絵にも勢いがない。線が硬いのだ。これは上手い下手の問題ではなく、少女漫画等で見られる女性的な細い線で少年漫画的にカッチリ線を閉めると、両者がそれぞれ持つ「柔らかさ・華やかさ」と「勢い・ダイナミックさ」が消え、迫力の無さと硬さという悪い部分が強調されるという、主に女性作家にありがちな問題である(という言い方をすると差別だなんだと思う方も広い世の中にはいるだろうだが、実際明らかに性質が違うので仕方ない。今まで読んできた漫画からの影響や使用するペン先の違いの他、筆圧も関係するのではないかと勝手に推測している)。私自身も悩むところなのだが、これもまたなかなか意識して変えられるものではない。そしてヘタウマというほどヘタでもないのが、はっちゃけきれない半端感をより一層かもし出している。
 以上の欠点ゆえに、尾玉なみえは折角のネタを活かしきれていないと感じるのだ。美味しい素材を料理しきれていない。
 欠点が必ずしも悪かというと、そうではない。達者な絵では表現出来ないこともあるし、逆に特出した別の長所を欠点が活かす、際立たせるということだってある。そもそも私は漫画において技巧の達者さを重用視しない。私の信奉する岡田あーみんも絵は言う間でもなく下手だし、構図やコマ割りも単調だが、それを補ってあまりある言語選択のセンスと殴り描いてんじゃなかろーかと思うまでのはっちゃけたペン遣いや勢いを持っていて、そしてそれ無しでは岡田あーみんのギャグ漫画は成立しないのである。なにわ小吉にあの発想力がなければただのやけに白い漫画だ。谷岡ヤスジがきっちり正確なデッサンをとっていたら、アサーにインパクトはない。野中英次に画力があったら池上遼一に訴えられてしまうし、この世にクラウザーさんが居なければ我々は生きていけない。そういうことなのだ。
 そう、尾玉なみえには特出する「何か」がまだ見えないのだ。この何かがナニなのかは、私にはわからない。そしてあと一枚薄皮をベロリと剥けば、ナニが見えそうな気配も感じさせる。
 明らかに何か光るものを持っている、なのになかなか地肌丸出しになれない…まるでふかわりょうのような漫画家である。

 ま、ふかわはもう剥けないだろうが。

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